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導入:人の心は変わらない? いや、変わる。 テーマは「 接触(contact) と 自己開示(disclosure) 」。偏見や強固な態度でも、正しい条件の接触と、当事者の個人的な物語の開示があると変わりうる――という話からスタート。ベースには 接触仮説(Allport→Pettigrew & Tropp の大規模メタ分析) がある(同等の地位/共通目標/協力/制度的支援で偏見は下がる)。
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自己開示は“物語”として効く 立場や正論よりも、「私がこれで傷ついた/助かった」という 一次の体験談 が、相手の 防衛的思考を下げ、共感ルート を開く。ここで「 Disclosure(打ち明け) 」が鍵語になる。YANSS は、怒りの応酬より 弱さの共有 が効くと説く。
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(当時の)最新研究の波乱:スキャンダル→再検証 2014年に「当事者の対面会話で同性婚の賛否が長期に変わる」という LaCour & Green の有名論文が出るが 不正発覚で撤回 。ただしその後、 Broockman & Kalla (2016, Science) が 透明な手続き で “ディープ・キャンバシング” をテストし、 10分程度の対話 で トランス差別が数か月単位で低下 することを示した(当事者か否かは効果に本質的でない)。
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メカニズム:視点取得+自己物語の更新 説得ではなく 傾聴→共感→自分の経験と接続→価値の再評価 という順路。 論破ではなく“思い出させる” 設計が効く(例:身近な差別経験から一般原則へ)。
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実践のフォーマット “深い対話”はスクリプト的に進む:
- ラポール (目的の共有・敵意を落とす)
- 相手の経験を引き出す (オープン質問)
- 自分の物語を短く開示 (脆弱性の見せ方)
- 再フレーミング (公平・安全・尊厳など上位価値で結ぶ)
- 相手の言葉で要約 (オウム返しではなく“要旨復唱”)
- 軽いコミット (「次こうしてみる」を相手が決める) ──という流れを YANSS は事例で描く。
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再現性と拡張 ディープ・キャンバシングは LGBTQ+以外のテーマ(移民・刑事政策など)にも展開され、 一部で長期の態度変容 が確認されている(例:People’s Action の大規模実務/学術検証の試み)。ただし 状況依存性 が強く、誰でもいつでも効く“銀の弾丸”ではない。
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“誰が話すか”より“どう話すか” 2016年の追試では、 当事者/非当事者の別より 、 対話の質(視点取得・共感的傾聴・自己開示) が決定因子。 アイデンティティの一致 は助けにも足かせにもなりうる。
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接触仮説の前提はやはり重要 オンライン炎上空間のように、 地位非対称・非協力・制度的支援なし だと逆効果になりやすい。 場の設計 (モデレーション/タイムアウト/1対1)が不可欠。
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注意:初期の“奇跡的効果”の部分は再評価済み LaCour 論文は撤回。にもかかわらず「 深い対話 」自体は 条件次第で有効 という点が、後続研究で より控えめな効果量 として残った、というのが現在地。
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3つの約束 : 非対立の姿勢/時間を区切る(10–15分)/“最後は相手が決める” 。
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質問の骨子 :
- 「この話題で いちばん思い出す体験 は?」
- 「 その時の気持ち は? 何がいちばん大事だった?」
- 「 似た状況で自分も 困ったことは?」( 等価交換 の自己開示)
- 「 公平/安全/尊厳 の観点だと、どうあるのがいい?」
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終わり方 :相手の言葉で要約→「聞けてよかった、考えるきっかけになる」→ ソフトなフォロー提案 (資料1つ/できる行動1つ)。
- 接触+自己開示 は、条件が揃えば 強固な態度 も動かせる。
- スキャンダル(LaCour撤回)後も、 深い対話 は 慎ましいが持続的な効果 が追試で確認。
- 効かせる鍵は、 対話の質(共感・視点取得・物語) と 場の設計(対等/協力/安全) 。